パリでの体験記


矢地理彩奈(高71回)

 

ごきげんよう。

 

白百合学園第71回卒業生の矢地理彩奈と申します。フランスで暮らし始めて3年目に入りました。現在はパリにて、HEC Parisの大学院2年生で起業家論を専攻しております。ここへ辿り着いたのは偶然でありながら、どこか必然のようにも感じています。

 

フランス語を軽い気持ちで取り組みはじめたのは中学校での教室。先生の発音を必死に真似しながら、わからない単語を筆記体で書き写し、辞書で追いかける。特に高校で第一仏語を選択してからは、少人数ゆえに逃げ場もなく、毎回指名される緊張感に包まれ、とても鍛えられました。もちろんフランス語祭での劇や、授業中の歌など楽しい思い出がたくさんあります。フランスへの好奇心と白百合学園の特有生を最大限に活かしたいという軽い気持ちで選択したのですが、これが転機だったといえます。

 

高校2年生の夏にはリヨンに1年間の長期留学するほどフランスに魅了されていました。異国で生活する大変さはありましたが、フランス語を通じて人とつながる楽しさは、すべてあの九段下の教室から始まったのです。

 

慶應義塾大学に進学してからは、アフリカやビジネス、コンピューターサイエンスなど興味の幅を広げつつ、折に触れてフランス語圏とのご縁を大切にしてきました。その延長で大学院入学前には西アフリカ・セネガルの現地企業のマーケティング部署で3ヶ月仕事をする機会を得ました。

 

2023年8月に始まったパリでの大学院生活ですが、1年目は国際色豊かなキャンパスライフを送り、2年目に当たる1年間を休学し、パリで6ヶ月のフルタイムインターンを2つ経験しました。1つ目は金融情報系のコンサルタント、そして2つ目はサステイナビリティー(SDGs)のプロジェクト管理、と異業種で働きました。その頃からクラスメイト、同僚、先生にフランス語で揉まれる日々です。主張をするのが当たり前なフランス文化で過ごすのは簡単なことではありませんが、日々助けてもらいつつ生活しています。ありがたいことにフランス政府奨学生としても選ばれており、これは大きな自信につながっています。白百合学園で始まった一本の糸が、途切れることなく続いていることを実感します。

 

 

先日、ノートルダム大聖堂のすぐそばにある「サン=ジュリアン=ル=ポーヴル教会」でコンサートがありました。古い石造りの壁に弦楽器の響きが反響し、まるで時がゆっくりと巻き戻されていくようでした。プログラムには聖歌も含まれており、天井へと吸い込まれる歌声を聴きながら、中高時代のミサを思い出しました。すべて聞き覚えのある曲であることに気づき、白百合で日常的に触れていた音楽がいまも私の感性を支えているのだと胸が温かくなりました。

 

そして、その舞台に立っていたのは同級生の頼近友莉奈さん。頼近さんは同じく2023年秋より渡仏し、パリの音楽院にてヴァイオリンを専攻しつつ、普段は現地のオーケストラで活動しています。今回のコンサートでは、ソリストとして、ヴィヴァルディの《四季》を奏でていました。その姿は凛としていて、音色は透き通り、静寂と拍手喝采が交互に押し寄せました。白百合時代、一緒にお弁当を食べていた友人が、いまこうしてパリの舞台で輝いている――そのことが何より誇らしく、私自身の力にもなりました。司会者が彼女の名前の発音に少し苦戦していた場面では、会場が和やかな空気に包まれ、思わず笑みがこぼれました。

 

パリでは不思議と、白百合学園出身の方にお会いする機会もあります。同窓のご縁が遠く離れた地でも続いていることに、心強さと喜びを覚えます。

 

こうして振り返ると、フランス語も、教養も、仲間も――白百合で出会ったすべてが、今も私を導いてくれています。あの学びと日々は確かに生き続けており、そのことに静かな感謝の気持ちを覚えます。