活躍する同窓生


「白百合というルーツ」
 片山瑳紀(高64回) 「京楽堂」消しゴムはんこ作家

2021年10月、青山で初めて個展を開催しました。賑わいをみせる会場で「ごきげんよう!」と声をかけられ、ハッと振り返り懐かしい制服姿を見つけたとき、母校の思い出が脳裏を駆け巡りました。

現在私は判子作家 京楽堂として消しゴムはんこ作品を日々制作しております。中学一年次から趣味ではじめた消しゴムはんこが職に結びつくことになるとは、当時の自分が聞いたら驚くことでしょう。

白百合では6年の学生生活を送りましたが、外部生として入学した当時は公立校とは全く異なる独特の雰囲気に圧倒され、なかなか馴染めずにいたのを覚えています。そんな最中に彫りはじめた消しゴムはんこですが、上達するにつれてクラスメイトから認知され、担任の先生を通じて職員室からも制作依頼が来るようになりました。改めて当時を振り返ると、自分にとってはんこが一種の重要なコミュニケーションツールになってくれていたのだと感じます。

高校時代には共にはんこ作りを楽しむ友人にも恵まれ、消しゴムはんこ同好会を設立することになりました。部に昇格したのは私が卒業した後の事でしたが、今現在まで活動が続いているそうです。今年開催の展示会場にはんこ部の後輩が足を運んでくれることも多く、その度に初心を振り返っています。


はんこを通してアートに興味が湧いてきた所で待ち構えていた大学の進路選択では、元々理系を目指していたこともあり大いに悩み先生方を困らせました。そんな時、担任の先生から「君は生物に造詣の深い芸術家になりたいのか、いざ絵を描かせたらピカイチの研究者になりたいのか、どちらだ」と尋ねられ、自分は後者になりたいと心が定まり首都大学東京(現都立大)生命科学科への進学を決めました。

結果的には前者になりましたが、大学で得た生物学の知識は現在の制作を支える大きな柱となっており、モチーフとなる生物の外見だけでなく、生体メカニズムまで考慮したデザインが評価され、理系専門書の表紙デザインを手掛けさせていただく機会にも繋がりました。今後、第一線で活躍する研究者の研究成果を広く世に伝えるアウトリーチ活動をアート面から支えていけるよう、より一層制作に勉学に励んで参ります。

 

今回、卒業してからの日々を顧みる機会をいただけたことを心から感謝いたします。白百合学園で育まれた消しゴムはんこ制作の土壌に、大学で得た生物学の知識が芽吹き、これから成長を遂げ立派な大樹となれるよう精進して参ります。

シアノバクテリア
5μmの世界を消しゴムはんこで表現



<Q&Aコーナー>

Q1.校舎や通学路で思い出の場所はありますか?

特に思い出深いのは理科実験室前の廊下です。放課後に写真部の部活動のため、フランシスコの横にある暗室に行く際に必ず通るのですが、その年のノーベル賞の受賞内容など様々な内容のポスターが張り出されており、それらを眺めながら部員の皆が来るのを待っている時間がとても好きでした。

Q2.今も残している白百合時代の思い出の品などはありますか?

中学1年の音楽の時間に必死になって作ったミサ曲や朝礼の聖歌集などの楽譜は、今も大切に保管しています。大学在学時から卒業後にかけて歌のお仕事も少し経験したのですが、白百合の楽譜作りの際に行ったブレス、鼻濁音、無声音などをマークしていく作業はとても役に立ちました。また、高校3年次の合唱祭の「花野」の楽譜は、消しゴムはんこを用いて表紙を制作したものなので、見る度にはんこを彫りはじめた頃を思い返すきっかけになっています。

Pixel Planet Stamp


Q3. 今後のライフプランについてお聞かせ下さい。後輩へのアドバイスもお願いします。

2019年に消しゴムはんこ作品集を出版させていただいたのですが、今後ははんこ作りを通して理科の様々な知識に触れられるような新たな著作に取り組むと同時に、博物館や水族館などの施設でワークショップを組み込んだ体験型の展示などを実現させたいと考えています。

 

現在の活動における一番の原動力は、自身の興味や関心のあることをもっと深く知りたい、知り得た楽しさを広く伝えたいというところにあります。私は比較的はやい時期から生物という飛び抜けて好きな分野がありましたが、現在中高生の皆さまの中には、すでに自分の好きな分野の方向性が見えはじめている人もいれば、まだぼんやりとしている人もいることでしょう。

 

中高の勉学は基礎の基礎、広大な知識のフィールド上で拠点となる場所を一箇所ずつ構築している段階です。周りに何も見いだせない中で、不安や虚しい感覚に襲われることもあるかと思います。でも、拠点が増えていくにつれてその間に道が形成され、道が整備されていくにつれて街となっていくように、皆さまが今学んでいるところはあくまでスタート地点、ここから徐々に各個人の視野が形成されていくのだと思います。自分の興味や目標が定まらないという人は、焦らずに手当たり次第様々なことに挑戦して、拠点を増やしてみて下さい。また、道が見えはじめている人は、更に発展していくように、興味の赴くままにより深く調べ、学び、実践してみてください。